優先順位
こんな役に立たない危険な家を継いだ弟としての立場は、確かに姉達と同じような母への不満と静かなる怒りに近い思いもあるが、
それでも遺産やお金の問題を超えて「この家に託された課題の方を優先し、もっと大切な使命を果たせ。」という声が聞こえてくる。
特殊な世界を演じる母の存在は、決して人間的に見てはならない。我家に課せられた謎解きの使命を優先させるべき。
確かに、母は歪んだ世界を1人で演じきって逝ったようにも思える。殉死する宿命にあった芳喜さんという日本兵の英霊。大東亜戦争で亡くなっていった日本人。帰れなかった幾10万の日本人達の蘇った群集の課題でもある。
何故、日本民族は世界中を敵に廻して、若き命を引き替えにして闘わねばならなかったのか?。私にとっても母はまるで息子を不可解な暗闇に導いていく、心を乱す正体不明の悪の力を演じながら死んだようにも思える。
…母は子供にただ財産を残すだけの優しい親ではない。判りにくいがもっと奥深い、最後の戦いに挑み、残された課題を果たし終えた後に、ようやく満たされる平安である。
我家の使命を母から受け継いだ息子としての立場は、1人この家に残って我家に託された秘められた謎を解いて、歪んだ世の中に「正しい道」を示さねばならない。 |
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超越した心
普通の常識からしてみるなら、母はやはり子供の親としては母親失格なのだろう…。
だが、ある使命を与えられた人間。ある備えを果たしていく役割として見るならば、これ程、徹底した姿勢で行くべき道を示してくれる存在はいない。
不可解な母の判断は、時としてまるで間違った判断をして人の道に反した事をやり、周りの者の心をかき乱し、憂鬱と暗闇に落としていく、迷惑千万な母親にしか見えない事が多い。
姉達夫婦が「こうすべきじゃないとね…。」と注意するが何を言っても聞かない、その頑固で強烈な強い性格から、いつしか皆が反感を持ち、離れていき、やがては憎しみを持って酷評し母の邪魔をしていく敵側になっていく。
親を裏切っていく娘夫婦達すら最悪の敵側に廻しても、何かにとりつかれたように、わが道を貫き通していった母。
これは我ら家族の、兄弟姉妹の避けられない宿命であるようだ。
「ポチよ、泣かないで」
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毒盛り白い汁
事件の記憶
母親の老後を心配していた娘達夫婦が、やがて正反対の、静かな余生を送る筈の、老後をメチャクチャにして、散々に裏切り、困らせても足らない程に、かき乱す敵に変貌するとは想像も出来なかった。
悪人がいかにして悪人となっていくのか、その過程を嫌でも、よくよく見せられる立場に置かれた。
湯たんぽで低温火傷した母を無理やりに姉が引き取り、あちこちの病院に連れ回す事になった時も、母の財布から勝手にお金を抜いて支払い、「少なくなったので年金を下ろして持って来るように。」と「母が言っている。」と嘘を言って、持って来させた。
その無慈悲で卑劣なやり方が、あまりにもひどい状態になった。何故か復讐するかのような対応に変っていった。
虐待を受けるかも知れない母が心配になったが、約束どおり「最後は姉が母を看る。」という約束だったので委ねる事にした。
その後、母の身に色々と大変な事が起きていく。姉の作った夕飯を食べている時だった。何か汁物を口に運んだ後、急に気分が悪くなり、白い液を吐きながら意識が無くなり倒れたらしい。
母は何か白い物を胸元に吐いて倒れる時の事を覚えていた。
その後、救急車を何台も呼ぶ大変な事になったらしい。台車で運ばれ冷たい外気に触れて、かすかに意識が戻った時、「何台もの救急車がサイレンを鳴らしてうるさかった」と話した。
おぼろげな意識の中で見た断片的な記憶を辿りながら母は話して聞かせた。
私は推理して後で姉にこの時の事を聞き出そうとしたが、「知らない、そんな事起きてない!。」と平然とうそぶき答えた。
だが、その事件の後の姉の出す料理がすっかり変ったという。姉はもう2度と自分で母の食事を作らなくなり、宅配の弁当に切り替え、毎日同じおかずばかりを出され、うんざりして飽きてしまったという。
姉達も宅配の別の弁当を頼んで、母とは別々に違うおかずを食べていたという。
また意識を失って横になっていた時に「誰か判らないが、いきなり顔を強い力で、何度もわしづかみされて、苦しかった。」とも話した。
母は命の危険を感じて「田舎に大事な用事を忘れとったから、うちをすぐ実家に連れて帰らんね。」と言って、渋る姉を強引に言い聞かせて、「何とか戻って来た。」と後で私に話した。→ |
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※●謀略裁判
「債務不存在確認事件」という訴状を受理した裁判所からの呼出状が送達されて来た。賠償もまだ済まない内に裁判になった事に疑問を感じ、母は不当な事を進める裁判所に直談判した。
難聴で高齢の母を被告にして呼び出す事自体が非常識だ。糖尿病で体調悪い体で抗議に向かった。難聴の老母を呼び出す裁判所の猿渡書記官に「デタラメな訴状を受理した事は不当です。訴訟要件が満ちてない。即、撤回して下さい。」と抗議した。
「要件は満ちてます。」「満ちてるならその理由をきちんと示して進めて下さい。」だが、その後、この質問に答えないまま、裁判は進んでいった。
「母への呼び出しをやめさせる方法は何かありますか?。」「家の名義を変える以外に呼び出しを避ける方法はありません。」と猿渡書記官が名義の変更を勧めた。
「老人虐待はやめて下さい。被告への呼び出しには母に代わって息子の僕が出ます。」と。仕方なく「訴訟物」である我が家は母の名義から息子の私の名義に変更せざるを得なかった。
だが、最終弁論では不当な「謀略裁判」が待ち構えていた。家の登記変更手続が受理されず、被告席に着こうと私が立ち上がると「被告はお母さんです。息子さんは傍聴席に控えて下さい。」と止められた。猿渡書記官に完全に裏切られた。
「え、どういう事ですか?。」「名義変更は受理されてません。お母さんが被告席に着いて下さい。」「しまった、騙された。」
仕方なく、私は車椅子の母を被告席の傍に寄せて傍聴席に戻った。
耳の遠い母は裁判官の小さい声がほとんど聞こえなかった。「では被告席のお母さん、何かご意見はありますか?」「…?。」マイクも使わずに話しかけても聞こえる訳がない。
もう1度質問を繰り返した。「…?。」母は戸惑いながら「聞こえません。もっと大きな声で言って下さい。」「何かご意見はありますか?。」「言いたいことは…たくさんあります。」「!…では、意見が無いとして閉廷致します。」あっと言う間に、閉廷し、裁判官らは席を立っていなくなった。
一斉に他の書記官も傍聴席の人々もガタガタを席を立っていなくなった。「何ですか、今のは…(意見はたくさんある。)と言ってたじゃないですか!。」
「…。」「わざと聞き間違えるなんて何てひどい裁判官か!。」私は怒り、傍聴席から大声で叫んだ。 |