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引越しの手配 。
いよいよ、糸島の実家に帰ることに決まった。
大家の息子が、「平和町にある、「店舗付き住宅」は、倒壊の恐れが出てきたので、すぐにでも解体する。急いで出て下さい。」と言って来たが、代わりの引越し先の店舗がまだ見つからなかった。
市内で、今の店舗以上の条件の揃った、同じような物件は、いくら探しても、そう簡単には見つけられなかった。
それに、もし、見つかったとしても、兄貴が居なくなった後は、保証人も見つかりそうではない事が判ったので、仕方なく、とりあえず、田舎の実家に帰ることにした。荷物は一旦、実家のほうに、ライトバンで、少しづつ運んで持っていく事にした。
少しづつ片づけていく支度を始めた。だが、ライトバンでは、所詮、積める量には限界があった。少しばかりの荷物を縁側に降ろして、「今日はこれで終り。」と言って、すぐに店に戻った。
店舗と実家の間を、何回か往復していたが、母はそんな息子の様子を見ながら、つぶやいた。「そんな悠長なことじゃ、、いつ終わるか判らんばい。」と、じれったくて、しょうがないという気持ちで見ていた。
2、3、日して、また、店舗の中の荷物を片づけてから、段ポールに詰め込んで、車の荷台に積んで出発した。実家に着いて荷物を降ろしていると、母が近づいて来て言った。
「あんたの小さな車じゃ、いつまでかかるか判らんけん、トラックば持っとる、信行ちゃんに電話して、あんたの店の「引越し」を頼んだよ。弟の義勝にも手伝うように頼んどるけんね。」とキッパリと言った。
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「え、もう、また、母さんは、勝手な事をしてから。何も信行さんに頼まなくても、いいのに…。」と、言い返したが、「もうちゃんと手配して来てくれることが決まったから、あとは全部、任せんしゃい。」
もう、既にトラックで駆けつけてくれる日にちも決めて、当日の「予定」が決まっていると言う。もう、今更、断るわけもいかず、もはや、母に従うしかなかった。
若い頃から、思想や宗教の問題で、いとこの信行には迷惑ばかりかけてきた事を思い出した。実を言うと、昔、大事な約束を破って、そのまま、何も報告をしないまま、○一教会に献身していなくなった過去があった。
そのことで、母から頼まれて、私を引き受けて預かった筈が、「研修を受けたいから、しばらく休みを下さい。」とお願いした時、「どうせやるなら、献身して、しばらく教会の中に入って、実践したらいいよ。但し、。3ヶ月で報告するように。」という約束をさせて、送り出した。。
だが、その大事な約束を、私は平然と破って、連絡をしないまま、いなくなった。完全にメンツを潰されていたので、法事の時、久しぶりに私の顔を見た瞬間、激しい、怒りが湧いてきた。親戚のいとこ達が集まる中で、ひどくなじられ、罵倒された。そんな事があったので、いとこや、親戚たちに、もう世話にはなりたくなかったのだ。
しかし、こうして、引越しの日にちが決まり、2人には引越しを手伝って貰うことになった。
この2人は、文句を言いながらも、死の前に、大事な謝罪の意味を込めた仕事を、母の指示を受けて果たしてくれた存在であった。 |
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先入観と烙印。
姉夫婦は、弟が親戚の者の手を煩わせて、母の指示で引越しを手伝って貰った事を聞いて、またもや何か、とんでもない思い違いをして、誤解したのか、「本当に情けない。」と激しく文句を言って怒った。
弟が独立して、店を持った時にも、お祝いの一言も言って来なかった2人の姉たち夫婦。
せめて今度は、倒壊の危険を一刻も早く避けて、急いで引越ししなければならない、弟のピンチを察して、「今までの間違った対応を反省し、挽回する為に、少しでも、手助けしてあげよう。」というのが、まともな人間としての心であろう。
だが、この姉達は、挽回どころか、最後まで、わけの判らない弟への不満ばかり吐いて、悪口を言って、邪魔して、困らせてばかりいる。
だが、母は、咄嗟に機転を効かせて、危機から息子を脱出させる為に、電工石火の勢いで手配して、行動していた。
店舗の柱が白蟻でボロボロになり、今にも崩れて、倒壊するかも知れない危機状態を見せられて、ひどい状態を知っていたので、「早く引越しを終わらせなさい。」と心配してくれた。
1回でも家の中に入って、その様子を見てくれていたら、大家さんと、もめて来た事情も、すぐに、どっちの言い分が正しいか、理解出来た筈だが、姉夫婦は、いつも、大きな取り違い、思い込みばかりして、すでに先入観を持って決め付け、間違った批判ばかりしていた。
「弟は、家賃も、きちんと払わないで、大家さんに迷惑をかけたばかりか、その上、出て行けと言えば、高額な「立ち退き料」を要求する、まるで、ヤクザみたいな奴だ。と決め付けた。
「弟は、最後まで、まともじゃない、薄汚い、だらしない人間だ。」と勝手に烙印を押していた。事情をよく聞かないままの、大家の息子から、姉夫婦は相談を受け、「困った住人だ。」と一方的な話を聞かされ、信じたようである。
切実な事情を背負った人の声を聞かない人間が、重なると大変な誤解が生じて、悲惨な結果を招く、典けいだ。 |
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兄と、タラの木。
兄が、急に「白血病」にかかって、入院した時に、私が、夢で見た、(あなたの兄の命を助ける為には、3つの条件を果たしなさい。)という不思議な「啓示」を受けた話を母にした事がある。
その課題とは、実は
@、に、「床の間。」 A、に、「梅の木。」 B、に、「畑の所有権」の事を指していた。
母に、この夢の啓示の「3つの課題」を話して説明した。だが、どれも拒否されて、「結局、兄の命を助ける為の、わずか、1つでさえも、とうとう果たす事が出来なかった。」という残念な話をしなければならなくなった。
その時の、エピソードを書いて、あの時に一体、何が起こってしまったのかを、詳しく説明しなければならない時が来たようだ。
だが、肝心なアルバムの小冊子の1冊が、紛失してしまい、信じて貰える根拠を掲載する事が不可能になってしまった。
ここはどうしても、写真付きで解説できなければ、「兄と、タラの木」との関係を説明する上で、今ひとつ、説得力が足りないのだ。
他の記述でも、何度か説明して、「いずれ、備えるべき時が近づいたら、どうしても必要になるから、持ち出した物は全て必ず返すように。」と書いてきたが、未だに、持ち出した事を認めずに、返してくる気配が全く無い。
おそらく、上の姉が掃除している時に、アルバムを見つけて、そっと持ち出した可能性がある。
母がまだ健在の時に、私は、田舎の実家に帰る事になり、母と暮らすようになった。市内のお得意先も、遠い田舎に引っ込んでしまった店には、頼みにくくなったのか、次第に注文依頼が減っていき、「看板」の仕事が少なくなっていった。
弟の、その後の様子が、気になったのか、時々、日曜の度に、姉が掃除をしに来ていた。来る度に、バタバタと音を立てながら、引き出しを片っ端から開けて、掃除をするクセがあった。
ガラス戸のケースの中に置いていた筈の、病床の兄と、切り倒したタラの木を写した、アルバム冊子が、紛失した。 |
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復讐の雉と母・
今も、母の魂は、この家に漂っている。 確かに四十九日の法事をしないまま、母のお骨はお寺に納骨しないでいる。仏壇の前に置いたまま成仏しない状態だ。
母は、裏切った者達が、生き残って、今も邪魔ばかりし続けている、平和を乱す者達に、恨みを残したまま、放置している筈が無い。玄関に現れる人間が、改心して謝罪に来た魂なのかどうか、常に見張って必ず無念を晴らそうと、待ち構えている気配がする。
課題を果たせぬまま、息子を残して、先に逝った母だが、決してそのまま、成仏して終わる魂ではない性分だ。地上で交わした約束は、死んでも、猫に憑依して甦って必ず果たしていく。 |
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いつか、母が話してくれた事があったが、若い頃に、極道に走った、長男の初次伯父さんが、妹の母を評価した言葉があった。
さんざん遊び回って、お金が無くなると、家に帰って来て、妹達のコートを勝手に持ち出して、質に入れて、お金に替えたりしていた。
普段は黙って、何も言わないおとなしい妹が、どを越した相手に対しては、厳しい顔に豹変して、烈火の如く、怒り出すので、震え上がって、「チカはえずかー。」とつぶやいたそうである。
「闇からの力」。
長い暗闇に息子を追い込み、引きづり廻してきた不可解な母が甦り、暗闇から「闘いの道」に導き、その備えをさせていく、その深い意味が次第に見えてきた。 |
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